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調和的でサスティナブルな社会・経済システムとは?変化の激しい世界で歩きながら考える。

『市場を創る―バザールからネット取引まで』 1

この前、極端な経済政策と市場化の本を取り上げたので、バランスを取るために(?)、もう一つ別の本をリライト記事で紹介しておこう。
ゲーム理論で有名なミクロ経済学者(らしい)、ジョン・マクミランの著書、『市場を創る―バザールからネット取引まで』
2002年、ニューヨーク・タイムズの「その年でもっとも注目すべき本(Notable Book of the Year)」に選ばれている。

一言で言ってしまえば、市場設計と市場とは何かについて一般向けに書かれた本で、難しい理論説明や数式・グラフといったものは一切出てこないので、私のような素人にも非常に読みやすく分かりやすい。しかし、そこで述べられていることは、競争市場理論、情報の非対称性の問題、ゲーム理論、オークション設計、不完備契約理論、取引費用の経済学といった最新の経済理論に基づいている。

本書で取り上げられる「市場」は、古代アテネのアゴラ、ベトナム・ハノイの露天商、ルワンダ人難民キャンプや第2次世界大戦中の捕虜収容所で自然発生した市場、エイズ薬などの製薬市場、築地の魚市場、インターネットの電子商取引、シリコンバレーのイノベーション活動、1970年代後半の中国における農業改革、カリフォルニア電力市場などなど…と多岐にわたる。
理論のための抽象化された市場ではなく、現実の市場について具体的に書かれているので、読んでいて面白いし、読み終わった後はまるで世界一周市場見学の旅(タイムトラベル含む)を終えたような気分になれる。

本書の主張は、市場は万能ではなく、うまく設定されたときにのみ、うまく機能するというものであり、無批判な市場肯定や、市場システムそのものに欠陥があるとする考えとは一線を画している。
マクミラン氏によると、市場をうまく機能させるプラットフォームは、下記の5つの要素を備えているのだという。

●人々が約束を守ると信頼して差し支えない
●財産権が確保されている(財産の収奪から保護されている)
●(何がどこでどのような品質で入手可能かに関する)情報が円滑に流れている
●第三者に対する副次的影響(副作用)が抑えられている
●競争が促進されている

そして、市場設計により、貧困や環境破壊といった社会的問題の緩和も可能であることを提示する。