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調和的でサスティナブルな社会・経済システムとは?変化の激しい世界で歩きながら考える。

働きアリと日本の高齢労働者

この週末、会社のオフィスでレイアウト替えがある。昨日はほぼ一日、荷物の梱包作業に追われてクタクタになった。
午後になると、大手運送会社が外部に移す書類の引き取りに来ていた。どう見ても70歳前後にしか見えない小柄な男性が、台車にこぼれ落ちそうなほど文書箱を積んで運び出している。その姿を見ていろいろな考えが頭を過ぎった。
「この人は社員なのかしら?パートで働いているのかしら?」
「稼がないと暮らしていけないのかな。」
「あの歳になったら、特別な技術や知識がなければ、肉体労働ぐらいしかできないのか…」
「運送業だから、これでもまだ楽な現場にまわされている方なのかもしれない」

今の日本で、定年を過ぎても働かなければならない人は、けして少なくないだろう。高齢化社会、物価に対する年金支給額、その他の福祉の問題や老人の一人暮らしの増加など…私自身、一生働かないと生きていけない身分なので、他人ごとではない。あの男性も、どんなにキツくても仕事があるだけ恵まれているのかもしれない。
そして、そう思いながらも、今読んでいる『働かないアリに意義がある』という進化生物学者の書いた本の内容を思い出してしまった。

社会性生物であるハチやアリの働き方には、「齢間(れいかん)分業」と呼ばれる共通のパターンがあるそうだ。
彼らは、非常に若いうちは幼虫や子供の世話をし、次に巣の維持にかかわる仕事、そして最後つまり高齢になってから、巣の外へエサを取りに行く仕事をする。若いころは安全な巣の中で働き、余命が短くなったら危険な仕事に「異動」するというわけだ。人間からすると、ずいぶんひどいシステムだが、種の生存確率と集団全体の効率を高めるよう、合理的に進化した結果だという。

本には、実際にどのようなメカニズムが働いて「異動」が起きるかまでは書いていなかったが、彼らの社会には辞令を出すような司令塔つまり上司はいない。人間社会では考えられない話だと言いたいところだが、高齢者の知識や経験が役立つような生産の場が急速に減少している現代、結果的にハチやアリの分業システムに似てきてしまっているような気がしてコワイと感じた午後だった。