... listening to 4'33" 

調和的でサスティナブルな社会・経済システムとは?変化の激しい世界で歩きながら考える。

バージョンアップはしたけれど

人は自分の行動の本当の動機を知らない。
少しでも心理学や心理療法をかじったことのある人にとっては常識だが、多くの人にとっては、そうではない。「私は○○だから××した」と、自分ではちゃんと理由がわかっているつもりだし、そう思いたい。思っているのとは違う自分の本心など知りたくもないし、知らない方が都合がよいのだ。

脳科学を経済学に応用する「神経経済学」の第一人者、コリン・キャメラー教授にいわせると、人間の脳は、猿に報道官がついているようなものらしい。もっともらしい理由をつくって後で発表する。「自分のことは、自分が一番よく知っている」は、残念ながら錯覚のようだ。
そして、私たちは時々衝動的に行動し、あとで後悔したり、その意味を考えたりすることがある。「あぁ、私ったら何であんなことしちゃったんだろう?」

キャメラー教授は、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用い、意思決定する際の脳の活動をスキャンした。そうして得た画像から、進化的には古い部位にあたる「島」やその他の辺縁系が、目前の利益や損失に対する感情的反応を支配するのに対し、自己規制や論理的思考を担う前頭前野は、将来の利益の評価にかかわっていることが明らかになった。
近代経済学の「合理的経済人」は前頭前野しか使わないようだが、現実の私たちはといえば、、、

次のような人に見覚えがあるだろうか――意思が弱く、翌日体重計に乗った時に後悔すると知っていながら目の前にケーキがあればつい手を出してしまい、少々衝動的で、宣伝文句ほど素晴らしくないと知っていながらバーゲン品に手を出し、〔それでいて〕知能と運転技術は絶対に平均以上。それだからこそ、人間なのだ。多かれ少なかれ、皆同じである。ダニエル・カーネマンが書いたように、「人々はよく考えることに慣れていない」のである。論理的思考は意図的な努力が必要で、大変な仕事だ。ほとんどの決定は無意識に直感的に行われる。

                      (ダイアン・コイル 『ソウルフルな経済学』 p181)

脳内会議(全身タイツの人たちが出てくるヤツ)で、若手社員、前頭前野くんの中長期プランは、日々の売上に一喜一憂する中年“島”部長によって、いつも却下されているのだろうか。人間は、いまだに脳の新機能をうまく使いこなしていないようだ。

私も去年パソコンを買い替えたのだが、中身のExcel、Wordといったソフトもバージョンアップされており、しばらく四苦八苦したあげく、結局今までと同じコマンドしか使っていない。パソコンは、いまや私の脳の重要な出先機関なのだが、状況は“本店”と変わらないわけだ。。。(苦笑)

「俺はまだ本気を出していないだけ。」 by 前頭前野報道官

参考文献: 『ソウルフルな経済学―格闘する最新経済学が1冊でわかる』 ダイアン・コイル・著