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調和的でサスティナブルな社会・経済システムとは?変化の激しい世界で歩きながら考える。

ピダハンについて 1

本当に読む価値のある本というのは、自分の先入観や固定観念を壊して、価値観や認識の見直し・変更を迫るような内容のものだと思う。以前『凡才の読書術 2』でも書いたが、私たちはともすると自分が何となく感じていることを支持してくれるような情報ばかりをピックアップしてしまいがちだ。だから、あえて自分とは正反対の立場で書かれたものや、ときには今まであまり興味を持たなかった分野のものを選んで読んでみるのも必要だと思う。

春先に書店で見かけてからずっと気になっていて、先月やっと読んだ『ピダハン ―「言語本能」を超える文化と世界観』が、まさにそのような本だった。ダニエル・L・エヴェレットというアメリカ人言語学者が書いた、アマゾンの少数先住民族ピダハンに関する本で、そこに描かれているピダハンの社会や文化、言語のありようは、私が今までこのブログで書いてきた内容について、その前提から見直しを迫るものだった。

たとえば、おおまかに次のような前提あるいは推測である。

  • アリなどの昆虫にも見られるように、動物は子孫繁栄のための協力行動や利他行動をとる反面、もう一方では個体の遺伝子を残すため他者と競ったり、他者を出し抜こうともする。人間の個人と社会の関係も基本的にはあまり変わらない。
  • サルやオオカミなどの群れで行動する動物にボスがいることから、人間社会にも「長」や支配者といったボス的な存在が生まれるのは、人種や文化を超えてあらわれるパターンであろう。
  • 実験で、チンパンジーは引き算ができ、魚も数がわかる可能性を示唆する結果が得られている。数の把握は、動物が進化の過程で得た、サバイバルのための重要な能力である。
  • 脳の構造に進化のプロセスが見られることから、人間は他の動物と共通する行動パターンに、少なくとも無意識のレベルでは縛られている可能性が高い。しかし「意識する」ことで、それを乗り越えることも可能である。

これらのアイデアはもちろん、ピダハンの生き方と屈託のない笑顔は、複雑な文明社会に生きる私たちへの根源的な問いそのものといえる。
著者自身、もともとはキリスト教の伝道師で、研究のためというより、聖書をピダハン語に翻訳してイエスの教えを伝える目的でピダハンの村に赴いた。しかし、ピダハンとともに暮らし、彼らの言語、文化、生き方を理解するに従い、彼の信仰は薄れ、ついには無神論者になってしまうのである。

これから何回かに分けて、この本の内容をピックアップしていきたいと思う。