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調和的でサスティナブルな社会・経済システムとは?変化の激しい世界で歩きながら考える。

不都合でない真実?

国際関係に影響を与える因子には、地理や資源の有無といった固定的な条件以外にも、人口、経済力、技術革新など可変的な要因もある。中でも、比較的ゆっくりではあるが大きな影響を与えるものが、気候変動だろう。近年では言わずと知れた地球温暖化がある。

その地球温暖化が、世界に大きな地政学的変化をもたらすかもしれない。
前回、地政学における航路の重要性について触れたが、温暖化によって北極海の氷が溶けることから、新たな航路が開拓されようとしている。もし北極海を経由する航路ができれば、アジア・ヨーロッパ・北米間の航路が短縮されるだけではなく、インド洋を経由する必要がなくなる。この意味は大きい。
ユーラシアの航路であり、中近東の石油輸送ルートでもあるインド洋は、地政学的に極めて重要な海域とされている。
かつてインド洋を支配していたのはイギリスであり、現在は、米国の第六艦隊がインド洋を制しているという。このことからも、その重要性が伺える。

そのインド洋や海賊被害が多いことで有名なマラッカ海峡を経ずして、しかも短縮されたルートが利用可能になれば、大幅なコスト削減による物流革命が起きるだけでなく、国家間に働いている力学が劇的に変化する可能性もある。
北極海航路が、ロシア、カナダ、米国、デンマークやアイスランドといった北欧諸国の地政学的意味を大きく変えるのである。インドや中東の産油国なども国家戦略の転換を迫られるかもしれない。

これは石油の大半を中近東からインド洋を経由して輸入している日本には、あまり関係のない話なのだろうか?おそらく、そうではない。シェールガスの開発を進めている米国が、北極海航路を積極的に利用するようになったら、現在インド洋に配備しているシーパワーを他の海域へ移転するかもしれない。もし、そこへ今度は別の国のシーパワーが入ってきたとしたら…?
近年、中国が大陸国家でありながらシーパワーの増強に力を入れているのは、このような将来をも鑑みてのことなのだろうか。日本は今よりもさらに、米国、中国、インドなどとの関係調整に窮々とし、難しい選択を迫られるかもしれない。

でも悪いことばかりでもなさそうだ。北極海航路ができれば、東アジア、東南アジア、オセアニアの製品が、北極海ルートでロシア、ヨーロッパへ輸出される。そのとき、北海道はベーリング海峡を経由する航路のアジアの玄関口になるそうだ。ライバル(?)はサハリン(樺太)。これまた北方領土問題を含め、ロシアとの関係が重要さを増す。
将来、アジア・パシフィック諸国から原料や部品、一次加工品が北海道やサハリンの工場に集まり、そこで最終製品に組立・加工されて輸出されるようになるかもしれない。反対側のロシアや北欧も同様だ。

…とは言っても、本当に北極海の氷が溶けるかはわからない。これから小氷河期が来るという予測もあるので、これらのビジョンが絵に描いた餅に終わる可能性もある。きっと各国は、いろいろな可能性を考慮しながら、卵をどのバスケットにどれくらい入れるか決めているのだろうな。。。

参考文献: 『未来学―リスクを回避し、未来を変えるための考え方』 根本昌彦・著