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調和的でサスティナブルな社会・経済システムとは?変化の激しい世界で歩きながら考える。

2つのベクトル―自由貿易とブロック化

世界経済のブロック化が進んでいる ― 今年は、このような専門家・識者のコメントを何度か見聞きした気がする。「ブロック」という言葉は使わなくても、自由化、グローバル化に対する揺り戻しが確実に訪れると警告する学者もいる。本当だろうか?

第二次世界大戦前、世界経済は大国を中心にブロック化し、輸入数量制限や関税障壁で互いに排除し合う保護主義が台頭、貿易戦争にまで発展した。これが同大戦の経済的背景となった反省から、戦後、GATTという国際貿易協定が生まれたと言われており、現在はWTOへ受け継がれている。
しかし、参加国が増え、ビジネスや金融の形態など世界経済の状況も刻々と変化するなか、「ラウンド」と呼ばれる交渉は回を重ねるごとに長期化するようになる。1986年に開始されたウルグアイ・ラウンドは、交渉妥結までに8年を要した。
そして、新ラウンドのドーハ開発アジェンダ(DDA)が停滞し、WTOが機能不全になると、各国は独自に多国間または二国間で、積極的にFTAやEPAを結び始める。

主な多国間協定だけでも、北米自由貿易協定(NAFTA)、メルコスール(MERCOSUR)、ASEANプラス3、ASEANプラス6、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)があり、この他にも様々な多国間・二国間協定がある。
加えて、欧州にはECから経済にとどまらない地域統合を成し遂げたEU(欧州連合)があるし、東アジア・東南アジアと欧州の関係強化を目的として始まったASEM(アジア欧州会合)、環太平洋地域の経済協力を進める非公式フォーラムのAPEC(アジア太平洋経済協力)といった、より大きな地域間協力の交渉テーブルもある。

さらにその先には、先に挙げたアジア・アメリカの協定地域すべてにロシアや台湾なども含めたアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)という構想が存在し、こうした地域間協定が最終的にはWTOに回帰するという見方があるが、私自身は少し疑問に思っている。
それらの協定の先に、本当にGATT・WTO体制が掲げる「自由・無差別・多角主義」という原則に基づいた世界が見えてくるのか?各地域間協定の背後には、むしろそのような原則や理想とは相容れない、国家間の政治的意図が働いているだろう。
今も、今までも、世界は危いバランス状態の中にあり、一応WTOが存在している現時点ではブロック化が進んでいるとまでは言えないが、何かの拍子に各地域間協定がそのように転じる可能性は十分ある、というのが私の印象だ。

参考文献: 『GATT・WTO体制と日本―国際貿易の政治的構造』 渡邊頼純・著