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調和的でサスティナブルな社会・経済システムとは?変化の激しい世界で歩きながら考える。

1996年の記事から2013年を憂う

突然だが、私たちは自分たちの国が一番、米国と親密で深い関係にある―少なくともアジア諸国の中では―と何となく思っていないだろうか?
私は最近ある本を読んで、漠然とそんなふうに思っていた自分に気がついた。しかし、やはりそれは思い込みだったみたいだ。

近年の尖閣諸島問題に関しても、私たち日本人は米国の発言、態度に関する報道に敏感に反応し、ネット上でも国民が一喜一憂しているさまが垣間見える。そうして、米国の方を見たり、また中国の方をふり返ってみたりしているわけだが、そのわりには米中関係というものを、現在の軍事的・経済的関係においてしか捉えていないのが、私を含めた多くの日本人の見方なのかもしれない。

寺島実郎氏の『日米中トライアングル・クライシスをどう制御するか』(1996年に中央公論初出)を読むと、米国と中国との関係は、日米間の関係よりずっと厚みも幅もありそうだ。
まず歴史的には、『タイム』『ライフ』を創刊した、かのメディア王ヘンリー・ルースは中国生まれで、『フォーチュン』誌などのメディアを駆使して反日親中キャンペーンを大々的におこない、1930年代の米国世論に多大な影響を与えたという。
また、在米華僑、中でも「客家(ハッカ)」といわれる北方漢族出身の一族が、米中関係のパイプとして果たしてきた役割は大きいらしい。孫文による辛亥革命運動を支えたのも在米華僑だったそうだ。
そして戦後、共産中国に危機感を抱いた国民党政府支援派いわゆる「台湾ロビー」の人たちが、日米安保を推進した面があり、必ずしもソ連だけが対抗軸とされていたわけではないという見方もあるという。

寺島氏は、三井物産時代にワシントンで活動した実感から、米国の親中派・知中派と言われる人の厚みは、親日派・知日派の何倍もあるようだと述べている。
また、日米中関係を大局的に観察してみると、日米関係が良いときは米中関係が悪く、逆に日米関係が悪いときは米中関係が良好というバイオリズムがみられるという。つまり米国内で、アジア外交の中軸を日本にとるか?中国にとるか?という綱引きが常にあり、米国はこのテーマを今も引きずっているというのが氏の主張である。

しかし、米中関係は「殴り合っているようにみえて、実はさすり合っている」といわれるらしい。この記事は、もう15年以上前に書かれたものなので、現在の米中関係は、さらにお互いの経済的依存度を増している。
そんな二国の間にいる日本は、すでにトライアングルの一角を成しているというよりは、さしずめ「捕えられた宇宙人」みたいな感じかも…

参考文献: 『国家の論理と企業の論理―時代認識と未来構想を求めて』 寺島 実郎・著