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調和的でサスティナブルな社会・経済システムとは?変化の激しい世界で歩きながら考える。

それは無くならないことを意味するのか?

ネットで聴いているBBCワールドニュースは、このところ毎日のようにトルコの反政府デモと内戦の続くシリア情勢を取り上げている。聞くたびに何とか早く解決しないものかと思うが、このような紛争や戦争・テロも、複雑性の研究においては、道路や市場での競争と同じように、多数の人々が限られた資源をめぐって繰り広げる一種の競争と見なすことができるそうだ。
戦争や武力衝突といった問題は、これまで主に政治・経済あるいは歴史やイデオロギー、地政学などの見地から研究・分析されてきたと思う。しかし、複雑性の研究は、紛争の背後にある、そうした個別の条件や思想、原因を超えて存在する、人間集団のパターンを浮き彫りにした。

正規軍か、あるいは反政府軍、ゲリラなのかに関わらず、関与する勢力の数が3つ以上になると、戦いは2つの勢力が争っているときよりも、はるかに複雑なダイナミクスと進化を見せる。そして複雑系は、市場の暴落や交通渋滞といった極端な事態がひとりでに生じてしまうという厄介な性質をもつ。
それに加えて、現代の内戦や武力衝突は、背後に麻薬売買などの非合法取引が絡んでいる場合も多い。武装勢力が、あたかも林床に生育する菌類や体内で増殖する癌のように、複数の養分供給網と栄養源によって養われているのだ。かなり堅固な構造をもつように自己組織化がなされ、菌や癌と同じように根絶するのがきわめて困難になる。

イギリスの数学者で気象学者のルイス・フライ・リチャードソンは、1820年から1945年までに勃発した戦争の犠牲者の総数を調べた。そしてデータをグラフ上にプロットしてみたところ、驚くべき分布パターンが現われたという。
身長や人口など多数のデータを集めたとき、通常その分布グラフは、「正規分布」と呼ばれるベル型曲線を描くことが多い。ところが、犠牲者Nの戦争が起きた回数は、Nが大きくなるにつれて減少していた。しかも、犠牲者数の分布は単純に減少していくのではなく、そこには「べき乗則」が成り立っていることがわかったのである。
ニール・ジョンソンによると、この事実から、かなり重要な結果が得られるという。まず好ましい面は、戦争の規模から見れば、最も頻繁に起きるのは犠牲者数が極めて少ない戦争だということだ。だが、その反面、めったに起きないとはいえ、非常に多くの犠牲者を伴う大規模な戦争や紛争が起きてもおかしくはない。この事実から、もし戦争を計画するならば、典型的な戦争ではなく、最悪のケースを考えて立案しなければならないことがわかると、氏は述べている。

また、ニューメキシコ大学のエアロン・クローゼットとマクスウェル・ヤングは、テロについて調査を行なった。テロ攻撃は、一般に戦争よりも時間的・空間的に広がりをもっている。にもかかわらず、犠牲者数Nの対数値に対して犠牲者がNの攻撃回数の対数値をプロットしてみると、やはりここでも、べき乗則が成立していることが明らかになったそうだ。

一方、ロンドン大学のマイケル・スパガットは、イラク戦争多国籍軍によるフセイン政権への攻撃だけでなく、その後の内戦期間も含む)やコロンビアの内戦をはじめ、いまなお継続している多数の戦いでの攻撃と、その犠牲者の詳細な分析を行なった。すると、犠牲者のデータにはパターンがあるだけでなく、一見関係無いように見えるイラク戦争とコロンビアの内戦の犠牲者のパターンが、近年はほぼ一致してきていることが明らかになったという。これは、戦争の背後にある原因やイデオロギーの違いに関わらず、どちらの反政府武装勢力も軍事行動の取り方は同じであること示唆しているのだという。

こうした研究がさらに進み、テロや戦争回避に役立つ日が早く来てほしいものだ。

参考文献: 『複雑で単純な世界―不確実なできごとを複雑系で予測する』 ニール・ジョンソン・著