... listening to 4'33" 

調和的でサスティナブルな社会・経済システムとは?変化の激しい世界で歩きながら考える。

猿知恵のエコノミック・アニマル

朝三暮四(ちょうさんぼし)
春秋時代、宋の国に狙公という猿好きの老人がいた。猿が増えて家計が苦しくなったため、飼っている猿に与える餌を減らそうと考え、狙公は「これからはトチの実(どんぐり)を朝に三つ、暮れに四つやる」と言ったが、猿が「少ない」と怒ったため、「朝に四つ、暮れに三つやる」と言い直したところ、猿はとても喜んで承知したという。
この故事から、目先の違いにとらわれ、結果が同じになることに気がつかないことや、結果は同じなのに表面的な利害にとらわれること、または言葉たくみに人をだますことを、「朝三暮四」「朝四暮三」と言うようになった。

新古典派経済学の理論では、合理的な「経済主体」というものが“標準モデル”として設定されている。その標準的な(?)人間は、合理的で利己的、常に自分の選好がなんであるか知っており、自分の効用を最大化するべく絶えず行動する
毎朝、通勤途中で立ち寄るコンビニで、どのパンを買おうか人生の一大事のごとく迷っている私は、経済学的標準モデルとはかけ離れているようだ(笑)。でも大丈夫。最近の経済学は、行動心理学や神経科学の研究を取り入れ、現実の人間が典型的な合理的経済主体とどう違うのか究明しつつある。行動経済学とか実験経済学と呼ばれているらしい。

たとえば車を買うとして、欲しい車種で車体の色が3種類ある場合、〔・白・〕の中から選ぶとを選好するが、〔シルバー〕の中から選ぶと>を選好する、ということが起きたりする。選択肢のメニューによって選択が変わってしまうのだ。私たちの選好は決して安定したものではなく、ときに一貫性がなくなる。

あるいは、もし、あなたが癌の治療を受ける必要があるとして、手術と放射線治療、どちらの方が良いだろうか?

: 手術を受けた100人のうち、術後90人が生き残り、34人が5年経っても生存しているが、放射線治療の場合は100人のうち100人が生き残り、22人が5年経っても生存している。

: 手術の場合は、術中死亡は10人で5年内死亡は66人、放射線治療の場合は、治療中死亡はゼロだが5年内死亡は78人である。

Aのように質問すると、回答者の18%が放射線を選好するが、Bのように質問すると、「直近の死を避ける」心理がはたらき、比率は44%に上昇するそうだ。
このように、論理的にはまったく同じ選択肢でも、その選択肢の提示の仕方、「フレーミング」が異なると、人は一貫性のない選択をする。私たち人間は、朝三暮四の猿たちを笑えないのだ。

参考文献: 『ソウルフルな経済学―格闘する最新経済学が1冊でわかる』 ダイアン・コイル・著